一辺1m余りある立派な仏画を持って、A様がご来店されました。
こちらの千手観音像の絵画は、ご縁のある韓国の方から譲り受けられた、大変貴重なお品との事です。
このスケール感と、艶やかで力強い画筆、そして功徳に包まれた様を目の前にし、思わず圧倒されてしまいました。
よく見ると、この仏画には長い年月の間に自然とできてしまった破れや裂けた箇所がありました。
これらを修復されたいというのが、今回のA様のご依頼です。
また、仏画は手作りと思われる木枠に張られ、そしてその周囲は、
通常日本では額に使用しない様な部材で、丁寧に外枠が張られていました。
この外枠を取り外し修復作業を進めるのですが、全体の経年劣化を考慮し、腫れ物に触るような細心の注意が必要でした。
また、作品を支えている手作りの木枠も独特でした。
こちらが裏側から見た木枠です。
木枠に使用された木材は正四角柱ではなく、四角形がくずれた菱型🔶のような形の物も混ざっていて、また全体的にねじれや反り等の歪みもあり、額に収めるのにひと手間ふた手間かかりました。
また、仏画が描かれている布は、木枠の外側から巻込んでいたと思われるものの一部が、枠の内側に垂れ込んできています。
この状態でよく作品のカタチが保たれていたと思います。これはお仏像様のご加護だったのかと思えば、なるほどと納得いくものでした。
本来なら、作品を一旦木枠から外して修復をするのですが、
この外す作業が修復過程でどのような悪影響を作品に与えるか分からないリスクがある事から、
作品を木枠から取り外さずに行いました。
そのため、かなり慎重な作業を要すと同時に、多くの時間と手間が掛かりました。
また、修復の考え方として、出来る限りオリジナル(素材)を尊重し、
新たなモノを出来るだけ加えないというスタンスで、必要最低限の作業を行いました。
作業内容は、先ず剥落止めを施し、画面の埃などを取り去る作業を致しました。
その後、裂け・破れ箇所の補修をし、最後に最低限の補彩を施しました。
文章に書くと上記のような「簡単」な工程のようですが、
その作業は、作品の状態がとてもセンシティブなため、その都度作品と「相談」をしながら、
慎重に注意深くすべて手作業で進めるものでした。
次の段階は、額です。
この大きさと、お客様のご希望で、特注額をご用意いたしました。
しかし、この木枠自体の幅が3cmほどとかなり幅があり、
歪みもあるため、特注額縁に入れても、この木枠部分が隠し切れません。
通常の額縁の掛かり(作品が額の外に出ない様にするための、周囲の引っ掛かり)は5~7mmほどです。
今回の特注額は掛かりを増やして10mm程にしました(構造上これ以上の「掛かり」を増やすことは出来ません)が、それでも木枠を隠し切れません。
この様に、木枠部分が額の掛かりから大幅にはみ出してしまいます。
そこで、木枠部分にグリーンテープを貼り、お化粧をすることにしました。
しかし、その前にすることがあります。
それはプラスチックの様な外枠を外した後の、糊などのバリを剥がし平面にすることです。
その作業をきれいに終えてから、テープを張り込みました。
そして特注額にUVカットアクリルをセットし、きれいになった仏画をようやくなんとか収めて、額装が完成いたしました。
この大きさなので、額裏は板でしっかり閉じ、強度を増しました。
今はA様のご自宅でより輝きを増して、飾られているとの事です。